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✅ 結論
歯周病と腸は、関係があると考えられ、研究が進んでいます。ただ、口のケアで腸の病気を防げるかは、まだわかっていません。私は、口の菌を減らす毎日のケアとして、朝起きてすぐの歯みがきを続けています。
📌 この記事でわかること
- 口の菌が、どうやって腸まで届くのか
- 大腸の病気・脂肪肝と、口の菌の研究(わかっていること・まだわからないこと)
- 歯周病と全身の病気を、数字で見るとどうか
- 甘い飲み物と歯周病の関係
- 歯科衛生士のわが家で、家族全員が続けていること
「歯周病は、歯ぐきだけの病気」。そう思われがちです。でも口の菌は唾液といっしょに飲みこまれ、腸まで届くものもあります。
この記事では、研究で「わかったこと」と「まだわからないこと」を分けます。私は医師ではありません。体の症状が気になるときは、かならず医師に相談してください。
まず、一般的な答えから|口と腸は「1本の管」でつながっている
口から食道、胃、腸、そして肛門まで。消化管は1本の管です。口は入り口で、腸はその先にあります。
唾液は、1日に約1〜1.5リットル出ます(葛飾区の資料)。その唾液を、私たちは知らないうちに飲みこんでいます。
以前は「口の菌は、胃酸でほとんど死ぬ」と考えられていました。いまは、生きたまま腸に届く菌もいるとわかってきました(下の研究)。
歯周病になると、歯周ポケットの中の菌の顔ぶれが変わります。その菌も、唾液といっしょに飲みこまれます。腸への影響は、人によって一律ではありません。
虫歯と歯周病のちがい|歯周病は「治療して終わり」になりにくい
痛みで言えば、虫歯のほうがつらいことが多いです。神経の近くまで進むと、眠れないほど痛むこともあります。
でも、全身とのかかわりで言えば、私が気をつけてほしいのは歯周病です。
1. 歯周病は、痛みがほとんどないまま進む
はじめのサインは、歯みがきのときの出血くらいです。歯がぐらつく、かむと痛む。そこまで来ると、かなり進んでいます。
歯ぐきから血が出るときのセルフチェックは、歯ぐきから血が出るのはなぜ?にまとめています。
2. 歯周病は、炎症の状態を見つづける病気
虫歯も歯周病も、治療のあとのケアが大切です。とくに歯周病は、歯石を取ってきれいになっても、菌がいなくなるわけではありません。
たとえるなら、庭の雑草です。抜いても、手入れをやめればまた生えます。だから歯周病は、毎日のケアと定期的なチェックを続けることが大切です。
歯ぐきに炎症があると、歯みがきなどの刺激で血が出やすくなります。炎症のある歯ぐきからは、菌や菌の成分が血液に入りこむと考えられています。
口の菌が腸に届く研究|わかっていること・まだわからないこと
大腸の病気と脂肪肝は、私の資格の外の話です。研究の中身を、わかる範囲で書きます。
フソバクテリウム・ヌクレアタムと大腸がん
フソバクテリウム・ヌクレアタムは、歯周病にかかわる菌の1つです。歯と歯ぐきのすきま(歯周ポケット)に多くいます。
2023年、横浜市立大学などの研究グループが発表しました。同じ人の唾液と大腸がんの組織から、同じ株のこの菌が見つかったという内容です。
「同じ株」は、同じ種類の菌の中でも、同じ系統の菌という意味です。口の菌と大腸の菌のつながりが、示されました。
この菌は、大腸がんが悪くなることにかかわっていると考えられています。ただ、この結果だけで、菌の通り道やがんの原因まで決まったわけではありません。
クレブシエラ菌|2つの研究を分けて読む
クレブシエラ・ニューモニエという菌も、口と腸の両方で話題になっています。ここは、2つの別々の研究がまざって伝わりやすいところです。
1つ目は2017年の研究です(慶應義塾大学などのグループ・Science誌)。人の唾液を、菌のいないマウスに与えました。すると口から来たクレブシエラ菌が腸に住みつき、腸の免疫細胞が増えました。
ふつうのマウスでは、この菌は腸に住みつきませんでした。抗生物質で腸内細菌を乱したマウスでは、住みつきました。
これはマウスの研究です。人の毎日のおなかの不調に、そのまま当てはめることはできません。
2つ目は2019年の中国の研究です(Cell Metabolism誌)。お酒を飲まないのに脂肪肝になった人がいます。その腸に、アルコールを多く作るクレブシエラ菌がいました。
この菌をマウスに与えると、脂肪肝になりました。ただし、この研究は「腸の菌」の話です。その菌が口から来たとは示していません。
研究 | わかったこと | 注意すること |
|---|---|---|
横浜市立大学など(2023年) | 唾液と大腸がんに、同じ株のフソバクテリウム | 通り道や原因までは言えない |
慶應義塾大学など(2017年) | 口のクレブシエラ菌が、マウスの腸に住みついた | 無菌マウスや、抗生物質を与えたマウスで確認 |
中国の研究(2019年) | アルコールを作るクレブシエラ菌と、脂肪肝 | 口から来たかは不明 |
「口の菌が、腸に住みつくことがある」。ここまでは、研究で見えてきています。「それで病気になる」かは、まだ研究の途中です。
歯周病と全身の病気|数字で見るとどうか
歯周病の炎症で出る物質は、血液で全身へ運ばれるとされます(日本臨床歯周病学会)。病気ごとに、わかっている度合いはちがいます。
糖尿病があると、歯周病になりやすく、悪くなりやすいことが知られています。最近は、歯周病の炎症が血糖の管理を悪くするという逆の関係もわかってきています。
項目 | 数字 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
亡くなるリスク | 約1.3倍 | 研究でばらつきが大きい。質の高い研究だけだと、差ははっきりしない |
心臓の病気で亡くなるリスク | 約1.4倍 | 観察した研究で、原因とは言えない |
脳卒中になるリスク | 1.26倍 | 同じ研究のまとめ |
3つとも、2023年の分析の数字です(PLoS One誌)。全体で約439万人分の研究をまとめたものです。中くらいから重い歯周病の人を、歯周病がないか軽い人と比べた、集団の数字です。項目ごとに、もとの研究と人数はちがいます。
この数字から、自分が亡くなる確率は計算できません。
歯周病のある人は、死亡や脳卒中のリスクが高い。観察した研究で、この関係が出ています。それだけで、歯周病が原因とは言えません。
糖尿病の人は、歯周病の治療で血糖の数値が下がった
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)という数値があります。ここ1〜2か月の血糖の状態を表します。
糖尿病と歯周病のある人の試験をまとめた分析です(Cochrane・2022年)。3〜4か月後を調べたのは、30の試験・2,443人です。
歯周病の治療を受けた人と、受けなかった人を比べました。受けなかった人は、ふだんどおりのケアの人などです。3〜4か月後のHbA1cは、平均0.43ポイント低い結果でした。証拠の確かさは「中程度」とされています。
歯みがきだけの効果ではなく、糖尿病の治療の代わりにもなりません。糖尿病の治療中の方は、歯科医院でそのことを伝えてください。
歯周病と全身のかかわりは、歯周病と全身の健康でもくわしく書いています。
歯周病と認知症の研究
アルツハイマー病の人の脳から、歯周病菌の成分が見つかったという報告があります。九州大学は、その成分をマウスに与えつづけました。脳の炎症の仕組みを調べる研究です(2017年)。
2020年には、マウスの研究も出ました(九州大学)。歯周病菌を全身に与えると、アミロイドβが脳に取りこまれました。アミロイドβは、アルツハイマー病の人の脳にたまるたんぱく質です。
「歯周病を治せば、認知症を防げる」という単純な話ではありません。口のケアが全身にかかわる道すじの1つとして、研究が続いています。
甘い飲み物と歯周病|虫歯だけの話ではない
甘いものは虫歯のもと。これは、子どものころから聞いてきたと思います。実は、歯周病との関係を調べた研究もあります。
2022年のまとめでは、13の研究のうち11で関係が見られました(論文)。甘い食べ物や飲み物をよくとる人ほど、歯周病が多いという関係です。
ただし、ほとんどがある時点だけを調べた研究です。著者たちも、証拠はまだ限られていると書いています。
気をつけたいのが、果汁100%のジュースです。WHO(世界保健機関)は、果汁の糖も控えたい糖にふくめています(WHO)。「100%だから大丈夫」とは言えません。
白いパンや白いごはんは「精製された炭水化物」です。歯周病との関係を調べた研究は、まだ少ない分野です。この記事では、言い切らずにおきます。
腸のための飲み物と歯の関係は、腸にいい飲み物は歯にもいい?にまとめました。
歯科衛生士のわが家で、家族全員が続けていること
わが家で続けているのは、特別なことではありません。
1. わが家の朝の習慣|起きてすぐ歯みがき
私は、朝起きてすぐ歯みがきをします。
寝ているあいだは唾液が減り、口の中の菌が増えやすくなります。朝いちばんは、口の中の菌が多い時間です。歯みがきの前に水を飲むと体に悪い、という意味ではありません。
朝食の前と後、どちらに歯みがきをするか。くわしくは歯磨きの時間帯、いつがベスト?に書いています。
2. わが家の食後の習慣|歯みがき、できなければうがい
わが家は、飲んだり食べたりしたあとは、かならず歯みがきをします。みがけないときも、最低でもうがいはします。
ただ、うがいだけでは歯垢(プラーク)は落ちません。うがいは、みがけないときのつなぎです。
これは、家族全員でやっています。甘い飲み物のあとも同じです。水やお茶を飲むたびに歯みがきが要る、という意味ではありません。
3. わが家の検診は2〜3か月ごと|間隔は歯科医院で相談
わが家は、家族みんなで2〜3か月に1回、歯科医院で検診を受けています。
歯周病は、自分では気づきにくい病気です。歯周ポケットの深さは、歯科医院で測ってもらわないとわかりません。通う間隔は歯ぐきの状態で変わるので、かかりつけの歯科医院で相談してください。
歯科医院の選び方は、失敗しない歯医者の選び方にまとめています。
口と腸のために、毎日できること
口のほうでできること
- 歯と歯ぐきの境目に毛先を当ててみがく(歯の表面だけでは足りない)
- フロスか歯間ブラシを毎日使う(歯と歯のあいだは、歯ブラシだけでは届かない)
- 洗口液は、歯みがきの代わりではなく、足りないところの補助として使う
みがき方のコツは正しい歯磨きの仕方にあります。フロスのことはフロスを毎日続けるまでにやった3つの工夫へ。
食事のほうでできること
- 甘いもの・甘い飲み物を、だらだらとらない(歯周病との関係は上の章)
- 果汁100%のジュースも、糖の多い飲み物として考える
腸のための食事は、腸内環境と体重の関係を調べてみたなどにまとめています。
「口の菌が腸に届く」話は、日本歯科医師会のシンポジウムでも取り上げられました。
よくある疑問
歯ぐきから少し血が出るだけなら、様子を見てもいい?
歯みがきで血が出るのは、歯ぐきに炎症があるサインです。痛みがなくても、一度歯科医院で歯周ポケットを測ってもらうことをおすすめします。
歯周病だと、腸の病気になる?
歯周病があるから腸の病気になる、とまではわかっていません。口の菌が腸に住みつくことがある、というところまでが見えてきている段階です。
おなかの症状が気になるときは、かならず医師に相談してください。
洗口液だけで、歯周病菌は減らせる?
歯周病菌は、歯の表面や歯周ポケットの中に、かたまり(バイオフィルム)を作ります。このかたまりは、うがいだけでは落ちにくいです。毎日の歯ブラシとフロスで落とすのが基本です。
ただ、深い歯周ポケットの中など、自分では取れない所もあります。そこは歯科医院で取ってもらいます。
自分の歯を長く使う|8020運動と「キープ28」
「80歳で20本以上の歯を残そう」という8020運動は、よく知られています。最近は「キープ28」という言葉も聞きます。8020運動に代わるものではなく、もう一歩先の目標です。
親知らずをのぞく永久歯は、全部で28本です。1本も失わずに、自分の歯を生涯使おうという目標です。
歯を失う原因の多くは、歯周病と虫歯です(8020推進財団)。どちらも、毎日のケアと定期的なチェックで予防をめざせます。
まとめ|口と腸の研究から、毎日の口のケアを考える
- 口と腸は1本の管。口の菌には、唾液といっしょに腸まで届くものがある
- 口の菌が腸に住みつくことがあると、研究で見えてきている。病気との関係は研究の途中
- 歯周病のある人は、心臓の病気などのリスクが高い(関係であり、原因とは言えない)
- 甘いものをよくとる人ほど歯周病が多い、という報告がある(果汁100%も糖は多い)
- わが家は、朝すぐ歯みがき・食後は歯みがきかうがい・定期的な検診(間隔は相談で)
まずは、毎日の歯みがきとフロスを、続けやすい形で見直してみませんか。わが家の入り口は、朝起きてすぐの歯みがきでした。
※ この記事で紹介した研究には、まだ途中のものがふくまれます。歯ぐきやおなかの症状が気になるときは、歯科医師・医師に相談してください。
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参考文献
- 葛飾区「唾液のちから」(唾液の量:1日に約1〜1.5リットル)
- 横浜市立大学「大腸がんに口腔内と同一菌株由来のフソバクテリウム・ヌクレアタムが侵入していることを確認」(2023年)
- 日本医療研究開発機構(AMED)「口腔常在菌の中には、異所性に腸管に定着すると免疫を活性化するものがいる」(2017年・慶應義塾大学 本田賢也教授ら)
- Yuan J, et al. Fatty Liver Disease Caused by High-Alcohol-Producing Klebsiella pneumoniae. Cell Metab. 2019;30(4):675-688.
- Guo X, et al. Periodontal disease and subsequent risk of cardiovascular outcome and all-cause mortality. PLoS One. 2023;18(9):e0290545.
- Simpson TC, et al. Treatment of periodontitis for glycaemic control in people with diabetes mellitus. Cochrane Database Syst Rev. 2022.
- Kusama T, et al. Free Sugar Intake and Periodontal Diseases: A Systematic Review. Nutrients. 2022;14(21):4444.
- WHO「Healthy diet」(ファクトシート)
- 日本臨床歯周病学会「歯周病が全身に及ぼす影響」
- 日本歯科医師会「歯と口の健康シンポジウム2023-腸に到達する歯周病菌を防ぐ!歯周病のリスクとオーラルケア-」
- 九州大学「歯周病菌のアルツハイマー様病態誘発に関与する原因酵素を特定」(2017年)
- 九州大学「歯周病菌感染は全身の脳老人斑成分を脳内輸入させる」(2020年)
- 8020推進財団(8020運動)
- 8020推進財団「歯を失ってしまう原因と対策」